金融機関向けデジタル資産インフラを手がけるリップル(Ripple)は12月23日、同社プレジデントのMonica Long(モニカ・ロング)氏による2026年の暗号資産市場における主要トレンド予測を発表した。
ロング氏によると、暗号資産はこれまでの「投機的な代替資産」という位置づけから、決済、資金管理、担保、清算といった機能を担う「現代金融の運用レイヤー」へと進化しつつある。機関投資家が保有するトークン化デジタル資産は、2026年末までに1兆ドルを超え、暗号資産が金融インフラとして構造的な役割を果たす段階に入るとしている。
1.ステーブルコインの主流化と企業の資金運用における変革
ロング氏は、今後5年間でステーブルコインが既存の決済・送金インフラと本格的に統合され、グローバル決済システムの中核インフラとなると見ている。その結果、ステーブルコインはクロスボーダー決済における事実上の標準手段になっていくという。
Visa(ビザ)やStripe(ストライプ)によるUSDC決済への対応は、こうした流れがすでに企業の決済フローに入り始めていることを示している。現在はB2B決済が中心だが、ユースケースは急速に拡大していくとロング氏は予測する。
特に、米国の規制に準拠した米ドル建てステーブルコインは「デジタルドルの標準」となり、24時間365日稼働するプログラム可能なグローバル決済を支える存在になるという。また、現代金融市場においては、決済手段にとどまらず、重要な担保資産としての役割も担うようになると見ている。規制の明確化が進む地域では、各国法定通貨に裏付けられたステーブルコインの成長も見込まれる。
「ステーブルコインは、単なる決済の高速化にとどまらない。滞留している資金を解放することで、キャッシュフローの構造的な改善に寄与する。企業による現預金の保有額は日本でも増加傾向にあるが、ステーブルコインは資金管理の柔軟性を高め、時間を問わない国際取引を可能にすることで、未活用資金に対する1つの解決策になる」
ステーブルコイン決済の年間実行レートは、2025年2月時点で約723億ドルに達しており、そのうち約360億ドルをB2B決済が占めている。
2.機関投資家によるデジタル資産活用の広がり
ロング氏は、暗号資産市場の次の成長は、暗号資産ETFなどの金融商品と、企業による本格導入が牽引するとみている。
2026年には、フォーチュン500企業の約半数が暗号資産を保有するか、正式なDAT(デジタルアセットトレジャリー)戦略を策定し、トークン化資産やステーブルコインを活用するようになるという。
2025年に実施されたCoinbase(コインベース)の調査では、フォーチュン500企業の60%がすでにブロックチェーン関連プロジェクトに取り組んでいることが明らかになった。また、デジタル資産の取得を戦略上の優先事項とするDAT企業は、現在では200社を超え、2025年だけでも約100社が新たに加わった。ロング氏は、準備資産の分散や次世代金融インフラへの戦略的エクスポージャーを目的に、企業がデジタル資産を活用する動きは今後さらに広がるとみている。
〈2025年6月、シンガポールで開催されたXRPレジャー(XRPL)のカンファレンス「Apex 2025」に登壇中のロング氏|撮影:増田隆幸〉
3.カストディ、M&A、トークン化の加速
ロング氏は、暗号資産分野のM&Aの最大の牽引役として、カストディを指摘する。銀行、金融サービスプロバイダー、暗号資産企業は、ブロックチェーン戦略を加速させるためにカストディアンの買収や提携をすでに積極化させている。
さらに今後は、大手カストディ銀行やクリアリングハウスでのトークン化が進み、2026年にはコラテラル・モビリティ(担保の流動化)が企業にとっての最大のユースケースになると予測する。
規制環境の整備が進み、カストディ銀行によるステーブルコインの採用が広がることで、資本市場における決済の5〜10%がブロックチェーン上で行われるようになる可能性と指摘。カストディプラットフォームは、単なる保管機能にとどまらず、発行・決済・担保管理を包括するフルスタック型の金融オペレーティングシステムへと進化していくという。
4.ブロックチェーンとAIの融合が金融業務を自動化
さらにロング氏は、ブロックチェーンとAIの融合が金融業務の自動化を加速させるとみている。財務管理がオンチェーンに移行する中で、ステーブルコインはリアルタイムの流動性管理を自動で実行し、オンチェーンのレポ取引における利回りを最適化する役割を担うようになる。即時に証拠金を差し入れる仕組みも一般化していくという。
また、AIモデルがゼロ知識証明(ZKP)を活用することで、機密情報を開示することなく借り手の信用力を評価できるようになり、信用市場における摩擦は大幅に低減していくと予測している。
|文・編集:増田隆幸
|画像:モニカ・ロング氏(撮影:多田圭佑)

